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石田衣良『ブルータワー』を読んだ

ブルータワーを読んだので、感想をぼちぼち書きます。

 悪性の脳腫瘍を患う男が、死亡率87%のウイルスが蔓延している世界にタイムスリップする話。この世相だからこそ身近に感じられた。黄魔みたいなウイルスが現れたら、実際に世界は滅びかけると思うし、本当に特権階級の人間しか生き残れないんだろうなーと思う。

 映画の『ランド・オブ・ザ・デッド』のウイルス版と想像してもらえればわかりやすいかもしれない。

 資産を持つ者が、荒廃した世界を支配する。

 下層、外にいる者のことは知らんぷり、もしくは労働力か奴隷として利用するだけ。

 ブルータワー内では『初夜権』なる女性差別全開な制度もあり、読んでいて重たい気持ちになった。現在の世界がリセットされたら、また中世レベルの法律や価値観がゾンビのように復活しそうな気がしたからだ。

 ウイルス、貧富の格差、階級制度がはびこる中でも、瀬野は200年後の世界を救おうとする。

 私だったらどうするかな?と考えたんだけど、救おうとは思わないかもしれない。もうみんなで死のうぜ!こんな世界は滅ぼしたほうが早いだろ!!みたいな破滅願望のほうが勝ってしまう気もする。

 話が横道に逸れた。心がガチガチになっていた瀬野が、周りの仲間に助けられて、生きたい!大切に思っている人たちと生きていたい!と強く願うようになっていったところはちょっとうるっとした。よかったね、瀬野さん。

 小説自体はおもしろいんだけど、気持ち悪さを感じた部分もある。

 それは主人公の瀬野と、彼を慕う武井利奈の関係性だ(これは単純に私の価値観の問題なので、この二人が好きな人にどうこうイチャモンをつける意図はないです)

 利奈が聖母のような存在になっているのがどうにも合わず。27歳の女性ってあんなに物わかりがいいものか?妻との関係が冷めきってはいるものの、瀬野は一応まだ妻帯者だし。瀬野に「脱げ」と言われて素直に脱いでる利奈も気持ちが悪いし、妻の不貞を報告してきた利奈に対して八つ当たりしている瀬野も気持ちが悪いと思った。

 あと瀬野が未来の世界へ、ウイルスの構造を知らせるために数列を覚えるシーンがある。が、その章は読んでてキツかった。利奈の愛なんだけど。愛ではあるんだけど。読んでいて恥ずかしいというわけではなく「なんかキッツいな~」と感じてしまったのよね。

 利奈がパーフェクトすぎるんだろうか。若く、美しく、好きになった男の言うことを無条件に受け入れ、彼のために尽くし全力で愛す……みたいなところに違和感を覚えてしまう。ソシャゲの美少女ゲーム広告を見ているときのような。つまるところ、昭和の男性が考えた理想の女性を見させられているところが、妙に気持ち悪かったんだと思う。